受け継がれる超精密技術と挑戦のマインド――AI・半導体需要の急拡大を足元で支える大羽精研の成長戦略│大羽精研株式会社代表取締役社長 若林 謙一

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目次

    実装機の心臓部を担うミクロン単位の技術力と、一貫生産体制を活かした伴走支援が信頼の基盤

    アルコニックスグループは、素材の流通・調達を担う商社機能から一歩踏み込み、製造業への業容拡大と付加価値の獲得に向けたM&Aを行ってきました。

    2013年にグループへ参画した大羽精研株式会社は、ミクロン(1mmの1000分の1)単位の精密加工技術を強みとするメーカーです。世界トップクラスのシェアを有するチップマウンターメーカーに、心臓部であるヘッドやノズルなどの基幹部品を供給し、世界のエレクトロニクス産業を支えています。

    AIの普及に伴う半導体需要の急拡大を背景として、同社の主力事業は増産体制に突入。既存事業の効率と利益の最大化が期待できるフェーズに入り、同社は将来に向けた新たな価値の創出に挑もうとしています。

    大手工作機械メーカーの製造現場で長年キャリアを重ね、「すべての事象は現場で起こる」という三現主義(現場・現物・現実)で進化を目指す若林社長にお話を伺いました。

    大羽精研株式会社

    愛知県豊橋市に本社を置く、1973年創業の超精密部品メーカー。ミクロン単位の高度な加工技術を誇り、チップマウンターの心臓部であるヘッド・ノズルの超精密加工・組立が主力事業。実装機の速度と正確性を支える高い技術力と、設計段階から関与する上流提案体制を強みとする。2013年、さらなる事業成長と経営基盤の強化を見据えて、アルコニックス傘下へ参画。以降、順調に業績を伸ばし、現在までに売上規模は約2倍に拡大している。

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    大羽精研株式会社
    代表取締役社長
    若林 謙一

    1989年熊本大学大学院生産機械工学科修了。社会インフラに関わる仕事を志して三菱重工業株式会社に入社し、以来一貫して工作機械分野を歩む。2015年に分社化された三菱重工工作機械株式会社(現・ニデックマシンツール株式会社)で、2019年に執行役員技術本部本部長に就任し、常務取締役、CEOを歴任した。同社の日本電産(現・ニデック)グループへの移管に伴い、日本電産マシンツール株式会社社長執行役員CEOに就任。2024年に大羽精研株式会社に入社、生産本部長を経て2025年より現職。

    トップシェアメーカーの躍進を支える「超精密加工」のプロフェッショナル

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    ――大羽精研は2013年のアルコニックスグループ参画後、超精密加工技術を強みに、売上を約2倍に伸ばしてきました。まずは、現在の主力事業についてお聞かせください。

     

    若林社長:当社は、愛知県豊橋市に本社を構える超精密部品の切削・研削加工メーカーです。事業領域は、実装機の部品をはじめとする精密機器、自動車部品、医療関連部品や試作部品の3分野であり、現在は売上構成の大部分を実装機関連事業が占めています。

    特に、電子部品実装機である「チップマウンター」の心臓部となるヘッドやノズルにおいては、ミクロン単位の形状精度と加工品質で高い評価を得ており、世界トップクラスのシェアを誇るメーカーを主要顧客としています。

    チップマウンターとは、電子回路の土台となるプリント基板に、ICやコンデンサなどの微小な電子部品を配置・実装するための装置です。最新の高性能機では、1秒間に約30個という高速かつ高精度で自動的に部品を実装することが可能であり、AI向け半導体を搭載するサーバーやスマートフォン、車載用電子部品などの製造を支える不可欠な装置です。

    こうしたチップマウンターを構成する主要部品には、当然ながら極めて高い加工精度が求められます。そのため、当社のコア技術である超精密加工への需要は継続的に拡大している状況です。

     

    ――AIの急速な普及に伴う半導体需要の拡大を背景に、実装機部品分野の売上が好調に推移していると伺いました。直近の状況をお聞かせください。

    若林社長:生成AIの普及やデータセンター投資の拡大を背景に、実装機関連事業の需要が着実に伸びています。これを追い風に2026年度の業績は特に好調に推移しており、実装機関連事業が全体の売上の大半を占めるに至っています。

    2025年に社長へ就任した当初は、本来であれば中長期の人材育成や将来の成長のための基盤づくりに注力していきたいと考えていました。しかし、実装機関連事業が想定以上に急拡大したことで、人員や設備の増強、増産対応に最も経営資源を投入する1年となりました。

    今後のさらなる需要増加や、新領域における開発基盤の強化にも対応できるよう、2026年度中の稼働を目指して新工場の建設にも着手しています。

     

    技術力と伴走力、品質保証力でチップマウンター市場からの厚い信頼を獲得

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    ――世界トップクラスのシェアを誇るメーカーをはじめ、多くのクライアントから厚い信頼を獲得されている理由について、どのようにお考えでしょうか。

     

    若林社長:当社が確固たる信頼を得られている背景には、大きく3つの強みがあります。

    1つ目は、技術者から技術者へ連綿と受け継がれてきた「高い技術力」です。

    当社の扱う部品は、いずれも手のひらに収まるサイズでありながら、薄肉で歪みが生じやすく、かつ複雑な形状をしています。これらにミクロン単位の精度を実現することは容易ではありませんが、要求どおりに仕上げる当社の切削・研削技術は、最大の強みであり圧倒的な競争優位性となっています。今後、市場で求められる部品の精度が高まるほど、当社の技術が活きる勝機は広がっていくと確信しています。

    2つ目は、顧客の課題解決に向けた「伴走型支援」です。

    当社は、切削から研削、組立、検査に至るまでの全工程を一貫して担える生産体制を有しています。この強みを活かし、「できないことをできるに変える」というマインドで、顧客の高度なニーズに応えてきました。自社に設計部門を持たないものの、顧客が抱える技術的なハードルについて早期から相談を受け、加工の実現性やコスト最適化の提案など、上流工程から関与するケースも少なくありません。

    3つ目は、高度な品質を裏付ける「検査装置と検査技術」です。

    どれほど精緻な加工技術を有していても、製品を正確に評価し、品質を保証できなければ顧客の真の満足や信頼にはつながりません。当社は、300台に及ぶ優れた加工装置に加え、国内に数台しか存在しない非接触のX線CT3次元測定器など、約50台の検査装置を保有しています(2026年3月時点)。これにより、非破壊での内部構造の測定まで可能としており、万全の品質保証体制を構築しています。

     

    実装機領域を軸に、フィジカルAI・AIインフラ領域への進出を本格化

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    ──実装機以外の事業について、現状をお聞かせください。

     

    若林社長:自動車領域では回生ブレーキシステムや水素自動車関連の部品を、医療領域ではインプラントや内視鏡鉗子、手術支援ロボットなどの部品を継続的に生産していますが、これまでは売上構成において実装機関連事業に大きく依存していました。

    しかし、主力の底上げにより安定した収益基盤を確立できたことで、いよいよこれらの領域に対しても資金や人材を積極的に投入できるフェーズに入ったと認識しています。

    スマートフォンや車載用電子回路、半導体関連の受注は市場動向やマクロ経済の影響を受けやすいため、特定の分野への過度な依存は経営リスクを伴います。既存事業を深耕しつつ、自動車や医療といった新たな柱を育成し、事業ポートフォリオを分散させることで持続的な成長を実現したいと考えています。

     

    ──新規事業の立ち上げについては、どのようにお考えですか。

     

    若林社長:AIが一過性のブームを超えて社会インフラとして定着する中、当社は「フィジカルAI」領域への投資拡大に大きな可能性を見出しています。

    フィジカルAIとは、AIの高度な判断能力と、人型ロボットなどの物理的なハードウェア(身体機能)を融合させた技術を指します。デジタル空間に留まる従来の生成AIとは異なり、センサーを通じて現実世界を認識し、自律的に物理的作業を実行する点が特徴です。

    これにより、危険作業の代替や、製造ライン・物流倉庫における搬送・仕分けの自動化など、深刻化する労働力不足の解消に直結するソリューションとして期待されています。

    こうした中で、当社の技術が特に価値を発揮するのが、ロボットの関節部などに使われる「減速機」です。減速機は、人型ロボットの正確な動作制御や滑らかな動きを実現する上で極めて重要な装置であり、内部のモーター回転数を調節する歯車部品には極めて高い加工精度が要求されます。ここに当社の超精密加工技術を応用できると考えているのです。

    スマートフォンから人型ロボット、さらには産業機器へのフィジカルAI実装が進むこれからのフェーズにおいて、当社の技術を活かせる場面は広がり、大きな成長機会になるものと見込んでいます。

     

    ――AI領域では、データセンターの電力需要への対応でも、高精度なハードウェアの製造力が競争優位性になりつつあると伺いました。具体的にお聞かせください。

     

    若林社長:生成AIの普及に伴い急増する、データセンターのインフラ需要にも大きな伸びしろがあると捉えています。

    フィジカルAIの膨大な学習や処理を担うデータセンターにおいては、万が一の停電時にもシステムを停止させないための堅牢なバックアップ体制が求められます。そのため、より巨大な電力消費や発熱に対応できる、高性能な非常用発電装置が欠かせません。電圧や周波数の変動に左右されず、安定した電源供給を実現するための高精度なハードウェア製造において、当社の超精密加工技術が介在する余地は十分にあると考えています。

    現在、試作部品を受注しており、近い将来各地のデータセンターへの導入が進むことを期待しています。実装機関連をはじめとする既存事業に続く新たな柱として、これらのAIインフラ関連事業を戦略的に育成し、次なる成長の牽引役にしていきたいですね。

     

    次世代を担う人材の採用に向け、従業員満足度の向上に注力

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    ――事業が多角化する中では、ミクロン単位の精度を実現する技術力や、諦めないマインドを次世代につなぐ人材育成も重要になります。これまで、どのように知見と技術を継承してきたのでしょうか。

     

    若林社長:現在では新入社員研修や階層別教育、テーマ別研修などが整備されていますが、とりわけ当社の根幹をなす超精密加工技術は、現場での経験を通してのみ培われる熟練の勘や感覚に依存する部分が多いのも事実です。依然として現場でのOJTや、熟練エンジニアの背中を見て学ぶスタイルが育成の基盤となっています。

    難度の高い課題に直面した際、先輩と後輩が「できないことをできるに変える」ために協力し合う過程で、おのずと技術力が磨かれていくケースが多く見られます。

     

    ――次世代を担う人材の採用にも力を入れていると伺いました。現在の状況をお聞かせください。

     

    若林社長:当社の最大の強みは超精密加工技術ですが、その技術を支えているのは他ならぬ「人」です。変化する市場に柔軟に対応し、中長期的な事業拡大に向けた基盤をつくる上で、人材の獲得は喫緊の課題と捉えています。

    しかし、当社が本社を置く愛知県豊橋市周辺には大手の優良企業が多く、人材獲得競争は非常に激しい環境にあります。

    そのため、まずは「成長領域において世界トップクラスのシェアを誇るメーカーから信頼される高い技術力がある」「既存事業による安定した収益基盤のもと、新領域にも果敢に挑戦している」といった当社の強みを広く発信し、魅力的な企業として認知していただく必要があると考えています。

     

    ――自社の魅力や強みを知ってもらうために、どのような取組みを考えていますか。

     

    若林社長:職場環境や仕事のやりがい、給与・福利厚生、経営方針などを見直し、ES(従業員満足度:Employee Satisfaction)を継続的に高めていくことです。

    働く環境や待遇に満足している従業員は、自社に対する好意的な情報を積極的に発信し、自信を持って知人に紹介してくれるようになります。結果として会社の良好な評判が形成され、優秀な求職者にも当社を魅力的な選択肢として捉えていただけるようになると考えています。

     

    事業基盤の確立と新領域への挑戦を両立し、持続的な成長を実現したい

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    ――大羽精研は、アルコニックスグループの技術やノウハウを活かして事業領域を広げてきたと伺いました。グループ内の連携について、具体的にお聞かせください。

     

    若林社長:アルコニックスが持つチタン材料などの知見を活かして医療分野に進出したほか、スペックの異なるCT検査装置を持つマークテック株式会社と連携して受託検査サービスを展開するなど、グループシナジーが当社の業容拡大に大きく寄与しています。

    また、製造・加工から品質保証に至る体制も、グループ参画を機に一層強化されました。

    グループ全体における製造部門の比率が高まる今、1社単独では対応が難しい課題であっても、グループ各社の連携によって解決へと導ける案件は多く存在します。そうした場面で求めに応じて真価を発揮しつつ、グループの経営資源を適切に活用して自社を発展させていくことこそが、グループの一角を成す我々が果たすべき重要な役割だと考えています。

     

    ――今後の経営方針について、どのようにお考えですか。

     

    若林社長:今後の経営方針は、大きく2つに集約されます。

    1つは、既存事業のさらなる基盤強化と安定化です。

    売上比率が高い基盤事業である実装機関連事業の競争力をさらに高めると同時に、それ以外を構成する自動車部品や医療機器分野の拡大を図ることで、高収益かつ安定した経営基盤を確固たるものにしていく考えです。

    当面は生産性と生産能力の向上に注力し、急速に変化する市場環境にもしなやかに対処できる体制を構築します。

    もう1つは、減速機関連やデータセンター向け非常用発電装置といった新規事業分野の拡大です。

    新規事業において重要なのは、一発必中ではなく、「百発一中」の精神。「小さく生んで大きく育てる」つもりで、数多くの仮説検証をスピーディーに重ね、柔軟な軌道修正を行いながら次世代の成長の糧となる事業を育てていきます。

     

    ──最後に、今後の展望をお聞かせください。

     

    若林社長:精度へのこだわりと、お客さまが抱える課題に全力で向き合う姿勢。それが、私たち大羽精研の原点であり、未来へつないでいくべき最大の強みです。

    挑戦と進化を続けるパートナーとして、AI・半導体需要の急拡大に応える「精密部品」の供給を通じて、お客さまとともに歩んでまいります。

     

     

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