創業70年の製造業が給与カットなし、労働時間延長なしで実現した週休3日制│マークテック株式会社 経営企画部 副部長 橋本雄史

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創業70年の製造業が給与カットなし、労働時間延長なしで実現した週休3日制

アルコニックスグループは、2030年度を最終年度とする「長期経営計画2030」において、「H(Human Capital:人的資本)」を重要経営課題に位置づけ、「給与」「教育」「機会」の「3つの『K』」を軸とした人財戦略を推進しています。グループ全体で残業時間の削減、有給休暇取得率の向上、賃上げの先行実施など、社員にとっての働きやすさを重視した施策を進めてきました。

団塊世代の大量離職や熟練工の高齢化、若年層の製造業離れといった複合的な要因により、人手不足は深刻化しています。

賃上げによる採用課題解決を模索する企業が増える中、非破壊検査とマーキングというニッチな領域で日本の基幹産業を支えるマークテック株式会社が選んだのは、「定期的な週休3日」の導入です。これにより同社は年間所定休日数を、125日から131日に、6日間も増やすことが出来ました。

製造業においては、長らく「設備を止めないこと」「現場を回し続けること」が最優先とされ、週休2日制の定着自体が他業界より遅れてきた歴史があります。現在でも、交替制や短納期対応を理由に、完全週休2日が難しい工場は少なくありません。そうした業界構造を踏まえると、「給与カットなし」「労働時間延長なし」という条件を維持したまま定期的な週休3日制を導入することは、単なる福利厚生施策ではなく、生産体制や業務設計そのものを見直す形の人的資本投資だといえます。

社員一人ひとりのウェルビーイング向上と、「高生産性組織」への進化を両立させる独自の生存戦略について、経営企画部橋本雄史副部長に、その導入背景、制度設計の工夫、そして導入1年目の成果と課題を詳しく聞きました。

目次

     

    マークテック株式会社は1955年の創業。企業理念「品質保証を通して社会に安全と安心を提供する」を掲げ、浸透探傷用化成品メーカーからスタートし、装置開発・製造へと事業領域を拡大してきた。2016年にアルコニックスのグループ会社となり、安定した資本基盤を得て海外展開や新規事業開拓を加速。
    従来の非破壊検査・印字マーキング事業に加え、粉体物性評価や受託生産事業を新たに立ち上げ、積極的なM&A戦略で技術承継にも取り組む。2025年には試験的な週休3日制を導入するなど働き方改革も推進し、2025年12月期の売上高はマークテックグループで過去最高となる売上高78億円、営業利益約6億円(※)。

    ※2024年7月にグループ化した東北化工株式会社を含む

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    マークテック株式会社
    経営企画部 副部長 兼 人事・経営企画グループ グループマネージャー
    橋本雄史

    大学のキャリアセンターでマークテック株式会社を知り、事業内容や待遇面に魅力を感じて入社。総務部で給与計算や社会保険業務に従事した後、新卒・中途採用や社内研修の管理などに関わり、現在は人事部門を主に担当している。福利厚生や人事制度の改善を継続的に手掛け、過去にはオンライン英会話の導入や、若手社員の海外派遣プログラムなどを実現させた。今回の隔月週休3日制導入においては、各部門長へのヒアリングから制度設計、運用調整まで、実務の中心的な役割を担っている。

    採用競争激化の中で見つけた独自の解決策

     ――まずは、週休3日制度の概要を教えていただけますか?

    橋本副部長:従来の週休2日制をベースとして、「マークテックオリジナル特別休暇」として定期的に週休3日の週を作る制度です。2025年1月から、隔月の第3金曜日を休日として運用を開始しました。

    ――第3金曜日に休日を設定したのはなぜですか?

    橋本副部長:営業、管理、製造の各部門の部長クラスと徹底的に話し合い、それぞれの事情を踏まえて導き出した最適解が第3金曜日でした。 

    まず、管理部門は、決算・締め作業で多忙な月末や月初は休めません。また、営業部門からは、顧客への周知と浸透のしやすさを最優先して「休日に規則性を持たせてほしい」との要望がありました。さらに、製造部門から挙がったのは、一斉休業による生産ライン維持への懸念です。

    当初は、月末を避けた別の平日や、祝日と組み合わせる案なども検討しましたが、月次業務や顧客対応への影響が大きく、全社最適とはいえませんでした。議論を重ねた結果、業務影響を最小限に抑えつつ説明しやすい落としどころとして、第3金曜日という規則性のある設定に行き着いたのです。

    最終的には、製造部門のみ第3金曜日と第4金曜日に分かれて休日を取得する2班体制とし、製造ラインを止めない運用を実現しました。

    ――製造業としては、異例かつ先進的な取り組みですよね。実施の背景についてお聞かせください。

    橋本副部長:現在、製造業はかつてない「超売り手市場」に直面しています。当社も例外ではなく、思うように採用ができない状況が続いていました。同じような状況にある競合他社の多くは基本給を引き上げていましたが、賃上げ競争になれば最後は消耗戦になり、本質的な差別化にはなりません。考えあぐねていたとき、社員から西本社長へのボトムアップで週休3日制の提案があったのです。

    ――社員と社長が直接話をする機会があるのですね。

    橋本副部長:年に1度、グループの正社員約300名が、社長と1on1を行う仕組みがあります。

    1年の目標設定について話し合うのが主な目的ですが、社員が社長に意見やアイディアを伝えられる貴重な機会としても機能しています。そこで、会社の環境や制度に対する改善施策が提案されることも珍しくないようです。今回も社員の声をきっかけに社長が取り組みの有用性を判断し、導入に向けた課題整理と制度設計を本格的に検討していくことが決まりました。

    その後、社内に向けて発表するまでの間に、社長と人事部門を中心に制度設計の在り方を検討しました。減給や1日あたりの労働時間を増やす形では、社員に受け入れられる制度として成立しないと判断し、それらを前提としない形を軸に議論を進めました。

    社内に向けて発表があったのは、2024年2月の経営方針発表会です。私たちは、そこから各部門の部長クラスとのヒアリングを実施し、「週休3日制によって影響が出る業務は何か」「業務への影響をカバーするにはどうするか」「休日設定はいつが最適か」といった確認と制度の詳細設計を進めていきました。

    給与カットなし、労働時間の延長なし-理想の週休3日制

    ――一般的な週休3日制は、給与減少や1日あたりの労働時間の延長などでカバーすると思いますが、どのように取り組んだのでしょうか?

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    橋本副部長:すでに週休3日制を導入している他業種の企業では、休んだ分を労働時間の延長で取り戻したり、稼働日数に応じて賃金を減らしたりする制度設計も多いです。しかし、当社では、定期的な週休3日で稼働日数が減っても賃金はそのままで、所定労働時間の延長も行いません。

    これは、「週休3日にすることで社員の負担が増えるのは本末転倒」という社長の考えが大前提にあります。また、当社の昼休みが12時から12時45分と変則的であるため、労働時間を延長すると管理運用が複雑になるという問題もありました。

    そこで、勤務スタイルを維持したままで原則2ヵ月毎に休みを1日増やし、社員と管理者に負担をかけずに休日増加の恩恵を感じてもらえる仕組みにしたのです。また、休日ではなく、特別休暇とすることで出勤日と同じ扱いとなり、残業代の時給単価を導入前と変わらない仕組みを構築しました。

    ――理想的な週休3日の在り方ですね。業務への影響はどのように抑えているのでしょうか。

    橋本副部長:1年あたり6日間の休日増になりますので、生産減、あるいは業務の停滞を招くことがないよう、業務効率化の取り組みを加速しました。

    以前は、製品の設計マニュアルや作業ノウハウが紙や個人フォルダに分散し、「あの人がいないと分からない」状況が起きがちでした。これらをクラウド上で電子化・可視化したことで属人性を減らし、誰が休んでも業務が回る体制を整えられるようになったのです。

    加えて、生成AIの活用による事務作業の短縮や、業務アプリを内製できるクラウドツールの導入も進めています。結果として、管理職が休暇調整に追われる場面も減り、「休んでも回る」という感覚が現場に根付き始めています。

    ――運用開始後に出てきた意見や問題はありますか。対処方法と併せて教えてください。

    橋本副部長: 現場対応や顧客との打ち合わせなどでどうしても決められた日に休めないケースがあるため、当該月内であればほかの日に振り替えられる柔軟性を持った仕組みを設けていました。しかし、社内ではあまり周知されておらず社員からの問い合わせも多かったため、再度社内でアナウンスを行い、周知徹底を図りました。

    一方で、対応を見送った案もあります。例えば、「休暇を時間で分割し、数日にわたって取りたい」「半休単位で取得したい」といった要望も出ましたが、「1日しっかり休んでリフレッシュする」という本来の目的が薄れる懸念や管理の煩雑化を防止するため、あえて対応しませんでした。

    趣味、通院、家族時間――休暇の過ごし方の幅が広がっている

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    ――社員の皆さんは、週休3日をどのように過ごされているのでしょう。

    橋本副部長:平日休みを活かして「子供の保育園の送り迎えを担当する」「子供が学校へ行っているあいだに夫婦でホテルのバイキングランチを楽しむ」など、家族との時間を充実させている社員が多いですね。混み合う週末を避けて高齢の両親を美術館に連れていき、趣味の美術鑑賞を一緒にゆっくり楽しんだという話も聞いています。

    土日は予約が取りにくい病院や美容院など、自分のケアに充てる社員も多いようです。家族が外出しているあいだに昼寝をしたり、一人でのんびりしたりして心身をリフレッシュすると話してくれた社員もいました。制度を設計した際にこだわった「負担を増やさず、1日しっかり休んでもらう」という目的がきちんと果たされているようです。

    これまでは「平日に休む=有給を使う」という意識が強く、通院や家庭の用事を後回しにしていた社員も少なくありませんでした。定期的に平日休みがあることで、「休む理由を説明しなくていい」「予定を立てやすい」という声が多く聞かれ、心理的なハードルが下がった点も大きな変化だと感じています。

    ――橋本さんは、どのように活用されているのですか?

    橋本副部長:私自身も、小学生の子供が2人いるので、家族サービスに週休3日制を大いに活用させてもらっています。

    普段の食事はどうしても子供が中心になりがちなので、その日は妻の好きなスパイスの効いたエスニック料理を食べに行くことが多いですね。先日も「いいポイント稼ぎだね」なんて妻に笑われながら、二人でランチを楽しみました。

    ランチの後は、子供たちが2時から3時に学校から帰ってくるため、その時間に合わせて宿題を見たり、習い事の送り迎えをしたりしています。平日の昼間に私が家にいることが珍しいせいか、子供に「なんでパパいるの?仕事行ってよ」と半ば不思議そうに言われることもありますが、家族のために時間を使えるこのひとときをしっかり楽しんでいます。

    週休3日制だけじゃない、社員ファーストの人事制度

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    ――過去には、週休2日制も業界の先陣を切って導入された実績があると聞きました。こちらの経緯もお聞かせください。

    橋本副部長:かつての製造業においては、製造ラインを止めないことが最優先だったため、週休1日、または隔週での週休2日休みが一般的でした。弊社は業界に先駆けて1980年頃から週休2日制を導入し、採用活動に大変ポジティブな効果があったと聞いています。当時としては先進的な判断だったと思います。今回の週休3日制も、その延長線上にある取り組みだといえるでしょう。

    私自身、2007年に新卒で当社に入社を決めたのですが、募集要項を見たときに完全週休2日制を含めた福利厚生の充実ぶりに大きな魅力を感じました。

    直近でも、急激な物価高騰による家計負担を軽減するためのインフレ手当、育児や介護で休業する社員をサポートする社員への手当などを支給しています。

    インフレ手当は月額3,000円からスタートして段階的に8,000円まで引き上げ、最終的には基本給に組み込む形でベースアップを実現しました。特に、昇給の影響が相対的に大きい若年層に喜ばれています。

    休業社員をサポートする社員への手当支給は、2026年2月から開始しました。これは、育児や介護で1ヵ月以上休業する社員の業務を引き継ぐ同僚に対し、最大3名に総額6万円の手当を支給する制度です。介護や育児のための休暇を取得したくても「周りに迷惑がかかる」と躊躇する社員は少なくありません。

    休業する社員が不在のあいだに浮いた給与・賞与の原資を、業務をカバーしている周囲のメンバーに還元することによって、休む側と送り出す側双方の抵抗感をやわらげる狙いがあります。

    ――社員の困りごとを起点とした制度が増えると、社員の満足度や定着率向上にもつながりそうですね。

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    橋本副部長:社員に対して定期的に実施している社内アンケートで「自分の会社を家族や友人に薦めたいか」を問う推奨スコアは、この1年間で30%から47%へと向上しました。さらに、退職者数も減少に転じています。

    また、導入の目的だった採用活動においても、市場に強いインパクトを与えているようです。2025年4月入社の新卒社員4名のうち、2名が「隔月週休3日制」を入社の決定打のひとつとして挙げました。中途採用の面接でも隔月週休3日制に対する評価が高く、1つのポジションに約100名のエントリーが集まるなど、成果を上げています。

    製造業の新しいスタンダードを目指して

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    ――週休3日制の今後の展開について、現在の想定をお聞かせください。

    橋本副部長:現在は隔月1回の実施ですが、これは通過点に過ぎません。すでに、2027年には月1回に実施頻度を上げ、2030年までには月2回とする中長期ロードマップを描いています。

    さらなるIT活用を進め、年間休日が24日増えても売上を維持できる体制を作っていくことが目標ですね。

    ――採用競争を勝ち抜いて優れた人材を獲得するだけでなく、DXによって既存社員のエンゲージメントをも高められる合理的な戦略として、業界に風穴をあける取り組みになりそうですね。

    橋本副部長:慢性的な人手不足に加え、技術継承の難しさによる業務の属人化、短納期・高稼働な生産スケジュールなど、製造業には「休みにくい」というイメージがあります。

    しかし、工程のボトルネック解消による業務効率化、AIをはじめとしたIT技術を活用した自動化の推進などを併せて行えば、生産性を維持して休みを増やすことは決して不可能ではありません。長期的にみれば、社員満足度の向上や人手不足の解消、省力化といった多くのメリットがあることも明らかです。

    もちろん、すべての製造業が同じ形で週休3日制を導入できるわけではありません。しかし、業務の可視化や属人性の排除、IT活用による効率化といった考え方は、規模を問わず応用可能です。重要なことは「休みを増やすかどうか」ではなく、「休みを増やしても回る組織をどう作るか」という視点なのだと思います。

    私たちの取り組みが会社の長期的な価値向上につながり、業界全体がよりよい方向に変わっていくきっかけになればうれしいですね。

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